歴史から考える今後の設備保全システム

設備保全システムの歴史は意外に古く、長い年月をかけて進化をしてきました。その進化を促すドライバーは何だったのか、今後求められる設備保全システムはどのようになるのかを本記事では考察します。

目次

設備保全システムの歴史のはじまり

設備保全システム(CMMS: Computerized Maintenance Management System)の歴史は意外に古く、1960年台に遡ります。当時はコンピューターのモニターもなく、IBMのメインフレームで動作する「パンチカード」でした。

当時は大企業や政府機関等、非常に限られた組織のみが設備保全システムを用いていましたが、時間をかけてこのシステムは徐々に広がりを見せてきています。ではその要因/ドライバーとなったものは何だったのでしょうか。


設備保全システム普及の3つのドライバー

①機械化・自動化の進展

当然のことながら、設備保全システムは工場に設備・機械が増えることによってそのニーズが高まってきました。労働集約型の生産工程では人間の主な仕事は製品を直接的に「作る」ことでしたが、生産設備が機械化・自動化されることによって、人間の仕事は徐々に機械が製品を作ることを「見守る」ことに移っていきます。オートメーションの進展とともにTPMという概念が生まれ、それを実現する手段として設備保全システムが求められてきたことからも分かるように、設備保全システムの普及には、機械化・自動化の進展度合いが大きく影響します。

②生産方式の革新

生産方式の進化は、設備保全システムの普及に影響を与えます。歴史的には、トヨタのジャストインタイム生産方式の出現によって、工場内における仕掛品在庫が減り、小さなトラブルでも工場全体の稼働に大きなインパクトを与えるようになりました。これが結果として設備メンテナンスの重要性をより引き上げることに繋がり、1990年台のITテクノロジーの普及と相まって(特に海外では)設備保全システムが広がっていったと言われています。より効率的な、よりリーンな生産方式の実現は設備保全システム普及のドライバーのひとつと考えられます。

③テクノロジーの進化

上述の「パンチカード」時代は極めて限られた組織のみが設備保全システムを利用していましたが、その後の技術革新に伴い、設備保全システムは市場への浸透を進めています。パーソナルコンピュータの登場は大企業のみならず中小企業での利用を促すとともに、足元ではクラウド・モバイルテクノロジーが設備保全システムの更なる普及のドライバーになっています。


今後の日本における設備保全システムの見立て

上記の歴史を踏まえたときに、今後の日本社会においては以下の2つの大きなトレンドが、設備保全システムの普及をより加速すると考えられます。

A:労働力不足による更なる機械化・自動化の進展

上記「①機械化・自動化の進展」に関連するメガトレンドとして、今後日本で起こる深刻な労働力不足が挙げられます。2040年の日本社会においては、約4000万人という現在の近畿地方一帯の労働者数とほぼ等しい数の労働者が不足すると言われています。この労働力不足が顕著になるのはまずは小売や運輸等の生活維持サービスになりますが、製造業もその影響を免れません。深刻な労働力不足が上記「①機械化・自動化の進展」を更に促し、それらを管理する設備保全システムのニーズも高まると考えられます。

B:AIの革新・普及

上記「②生産方式の革新」「③テクノロジーの進化」の両方に関連するものとして、LLMをはじめとしたAIの革新がより設備保全システムのニーズを更に引き上げるはずです。将来的には、AIの更なる活用によって、より機械・システム側が自律的に生産をコントロールすることが可能になると考えられます。そのような世界においては、今以上に設備トラブルによる機会損失が大きくなることが予想され、それをコントロールする設備保全システムの存在は大きくなります。また、より足元で起き得る変化として、設備保全システム側にもLLMをはじめとしたAIが搭載され、より高いUI・UXを実現できるようになることがそのニーズを引き上げることにも繋がると考えられます。


このように今後の日本社会においては、来るべき労働供給制約社会に向けて設備保全システムに対するニーズが高まっていくとともに、生成AIをはじめとした技術革新がその普及を更に加速化していくと考えられます。

兎にも角にも「紙を無くす」ことが最優先だったコロナが明け、顧客ニーズがより本質的なものに進化してきています。今後はそのニーズに応えられる、最新のテクノロジーをうまく活用した設備保全システムが市場に求められていくでしょう。

岡部 晋太郎 株式会社M2X 代表取締役CEO
東京大学卒業後、総務省にてIT政策の企画立案を担当。その後、外資系コンサルティング会社のボストン・コンサルティング・グループに入社し、製造業における中長期の戦略立案、DX等を担当。メンテナンスの重要性と可能性に惹かれ、2022年に株式会社M2Xを創業

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