2025年版ものづくり白書は、製造業が直面する「脱炭素(GX)・経済安全保障・産業競争力」という三重の要請を乗り越える切り札としてDXを”前提条件”に据えました。GXを推進しつつ収益力を高める――その両立を支えるのが、デジタル技術による業務変革を促すDXです。
しかし白書が示す現実は必ずしも楽観的ではありません。デジタル導入率こそ高いものの、本格的な変革まで実現できた企業はまだ少数派です。しかも変革の成否はシステムのみならず”ヒト”に左右される、というメッセージが読み取れます。本コラムでは、今年度の白書の重要ポイントを紹介します。
DXは競争力強化とGXを両立させる”基盤活動”
2024年9月に元欧州中央銀行総裁のマリオ・ドラギ氏が取りまとめた報告書”The future of European competitiveness”(通称ドラギレポート)は、「欧州に待ち受ける3つの変革」として、①イノベーションの加速と新たな経済成長エンジンの発見、②脱炭素化を継続しながらのエネルギー価格の低減とサーキュラーエコノミーへの移行、③不安定さが増す地政学への対応と他国への依存度の低減を指摘しています。この世界的な潮流を受けて、脱炭素化の世界的な潮流や地政学的リスクによるサプライチェーン分断、そしてAI・自動化技術の急速な発展により、各国が産業政策を「競争力×GX×経済安全保障」の複合視点で再設計する中、日本の白書も「製造業が稼ぐ力を取り戻すにはDXが重要」と位置づけました。
部分最適は進むが、本質的な全体変革はこれから
白書によれば、何らかの形でデジタル技術を活用して業務改善を行っている企業は全体の約8割に及んでおり、DXの定義は個社ごとに様々であることが想定されますが、全体としてデジタル技術の活用が進んでおり、その姿勢の高まりは企業規模を問わず浸透してきていることが伺えます。
工程別に見ると、製造工程では従業員数50人以下の企業が31.5%であるのに対し、従業員数301人以上の企業では67.9%となっており、生産活動の本丸である製造工程を支えるオペレーションでのDXは比較的規模の大きい企業を中心に取り組みが進んでいることが分かります。
ちなみに、製造工程で導入・活用されているデジタル技術として最も多く挙げられているのがロボットで66.7%、次にセンサーで63.9%、制御技術で61.1%となっており、オペレーション改善を促す要素技術の導入が未だ中心となっていることが窺えます。白書ではこのような状況について、「個社単位のデジタル化・効率化は一定の成果がある一方、ビジネスモデルの変革等、高度かつ広範な領域での成果創出は限定的」と指摘しています。

成否を分けるのは”ヒト”

まとめ――人とテクノロジーの両輪で未来を創る
DXはもはや検討段階を終え、先行き不透明な経済情勢の中で持続的成長を支える”基盤活動”へと格上げされました。とはいえ、未だ部分最適に留まっており、今後のより本格的な変革を進めていくためには”ヒト”が鍵になっていくことが本年度版の白書で改めて指摘されました。
M2Xは設備保全DXを進めていく企業として、この”ヒト”の部分にも寄り添っていきたいと考えています。既存人材のみで進めていかざるを得ない状況の中、極力現場に負担をかけずに変革を進めていくことができるのか。そのお手伝いを是非させていただければと思います。設備保全DXをお考えでしたら、ぜひ私たちにご相談ください。

岡部 晋太郎 株式会社M2X 代表取締役CEO
東京大学卒業後、総務省にてIT政策の企画立案を担当。その後、外資系コンサルティング会社のボストン・コンサルティング・グループに入社し、製造業における中長期の戦略立案、DX等を担当。メンテナンスの重要性と可能性に惹かれ、2022年に株式会社M2Xを創業