
設備保全のあるべき姿として、予防保全や予知保全の徹底、データを活用した設備稼働率の最大化がよく挙げられます。しかし多くの現場では、理想は理解していても「自社では何から手をつければよいのか」が定まらないまま、日々の突発対応に追われているのが実情ではないでしょうか。
先に結論をお伝えすると、設備保全のあるべき姿は一度に到達する完成形ではなく、いまの現場から段階的に近づいていくものと捉えるのが現実的です。予防保全や予知保全といった理想が形だけで終わってしまうのは、記録やデータという土台を整えないまま、最終的な姿だけを取り入れようとするからです。
この記事では、まず設備保全のあるべき姿として語られる要素を整理し、それが多くの現場で実現しない理由を課題の面から解き明かします。そのうえで、記録の蓄積から予防保全、予知保全へと段階的に近づく手順を、公的な調査データと5社の事例をもとに解説します。自社の現在地を見極め、次の一歩を描くための材料としてお役立てください。
設備保全のあるべき姿を考える前に、まず設備保全とは何かを押さえておきます。日本の生産管理の共通規格であるJIS(日本産業規格)では、保全を「故障の排除および設備を正常・良好な状態に保つ活動の総称」と定義しています。多くの解説でも、この定義にそって、突発的な故障を減らし、計画的に設備を良好な状態へ保つことが設備保全の役割だと説明されています。
ただし、設備を良い状態に保つこと自体が目的ではありません。その先にあるのは、必要な生産を安全・品質・納期・コストの面で安定して続けることです。だからこそ、すべての故障をゼロにしようとするのではなく、設備の重要度に応じて保全のかけ方を使い分け、故障が起きても事業への影響を最小限に抑えるという視点が欠かせません。
近年の設備保全DXやAXが見据えているのも、この延長にあります。紙やExcelに散らばりがちな点検・記録・トラブル対応・部品の情報をデジタルで一元化し、たまったデータをもとに、勘や経験だけに頼らず先手を打てる状態へ近づけていく。設備を守ること自体をゴールにするのではなく、事業の安定と成長を支える手段として保全を捉え直す流れです。
この記事では、まずこうしたあるべき姿がどのような要素で語られるのかを整理したうえで、多くの現場で実現しない理由と、近づくための手順を見ていきます。

設備保全の手法は、大きく事後保全、予防保全、予知保全の3段階で発展してきました。あるべき姿は、この発展の延長線上で語られます。
事後保全は、設備が故障してから修理する最も基本的な手法です。壊れるまで使い切れる一方で、故障のタイミングを選べず、突発的な生産停止を招きます。予防保全は、故障する前に定期的に点検や部品交換を行う手法で、時間を基準に計画する時間基準保全(TBM)が代表例です。予知保全は、設備の状態を常時監視し、劣化の兆候をとらえて必要なときだけ手を入れる手法で、状態基準保全(CBM)とも呼ばれます。
一般に、事後保全から予防保全、予知保全へと進むほど、突発的な停止を減らし、過剰な整備も避けられる状態に近づくとされます。設備保全のあるべき姿は、こうした発展の延長線上で語られることがほとんどです。
設備保全のあるべき姿として語られる要素は、大きく4つに整理できます。予防・予知保全の実現、設備稼働率の最大化、データの活用、属人化の解消です。まず全体像を一覧で確認します。
要素 | 目指す状態 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
予防・予知保全の実現 | 壊れる前に計画的に手を入れられる | 判断の土台となるデータがなく計画が組めない |
設備稼働率の最大化 | 突発停止を抑えOEEを高く保つ | そもそも現状の稼働率を測れていない |
データの活用 | 記録を分析し保全の判断に使える | 記録が残っていない、または分散している |
属人化の解消 | 誰でも一定の品質で保全できる | 熟練者の経験が言語化・共有されない |
予防・予知保全の実現は、故障を未然に防ぎ、計画的に設備を維持できる状態です。設備稼働率の最大化は、停止によるロスを最小化し、設備総合効率(OEE:Overall Equipment Effectiveness)を高く保つことを指します。データの活用は、点検や故障の記録を分析し、次の保全の判断に生かす状態です。属人化の解消は、特定のベテランに依存せず、チーム全体で保全の質を担保できる状態を意味します。
これら4つは、いずれも目指す価値のある姿です。ただし気をつけたいのは、これらが同時に達成された完成形として描かれやすい点です。実際には、4つの要素は順番に積み上げていかなければ実現しません。土台を整えずに最終的な姿だけを取り入れようとすると、理想は形だけで終わってしまいます。次の章では、その理由を現場の課題から見ていきます。
設備保全のあるべき姿が実現しないのは、現場が抱える課題が理想像との間に大きな段差を生んでいるからです。JIPMの2024年度メンテナンス実態調査では、設備管理・保全業務が『より難しくなっている』と感じる回答者が69.3%と約7割にのぼり、前年度から高止まりの状況が続いています。理想を語る以前に、現場は年々厳しさを増しているのです。この難しさの正体を、3つの課題に分けて見ていきます。
参考:JIPM『2024年度メンテナンス実態調査報告書 概要編』
設備保全のあるべき姿を最も根深く阻むのは、保全に回せる人手の不足です。担い手が減る一方で、保全すべき設備の負担はむしろ増えています。
背景には、3つの要因が同時に進む構造があります。生産年齢人口の減少による人手不足、長年現場を支えてきた熟練技術者の引退、そして設備の老朽化です。熟練技術者の引退は、単に人数が減るだけでなく、これまで言葉にされてこなかった判断のノウハウ、いわゆる暗黙知が現場から失われることを意味します。担い手が減る一方で、老朽化した設備には手をかける必要が増えていく。設備保全システムを開発・提供し、導入前から導入後まで製造現場に伴走してきたM2Xでは、この人手不足・熟練技術者の引退・設備の老朽化の同時進行を三重苦と呼んでいます。担い手は足りず、ノウハウは現場から失われ、それでも保全の機会と必要性だけは増えていく。この三つの重なりが、現場の余力を奪っています。
この状況は調査にも表れています。JIPMの調査によると、保全に必要な資源のうち最も不足感が大きいのは「人員」で、次いで「技術」でした。あわせて、製造業の就業者数は2024年の1,046万人から2025年には1,033万人へと減っています。中小製造業の従業員の過不足感を示す指標は2025年にマイナス17.9と、人手不足の感覚が強い水準にあり、人材育成の面でも6割以上の事業所が「指導する人材が不足している」と答えています。人手不足は、あるべき姿を語る前に向き合わなければならない前提条件だといえます。
参考:
2026年版ものづくり白書 概要(就業者数・従業員数過不足DI)
多くの現場は、日々発生する突発的な故障への対応に追われ、計画的な予防保全に踏み込めていません。故障が起きるたびに現場へ駆けつけ、原因を調べ、部品を手配する。その対応で一日が終わり、腰を据えて予防の計画を立てる時間が取れない、という声はよく聞きます。事後保全から抜け出せない構造が、あるべき姿への移行を妨げています。
この状況は、費用の内訳にはっきりと表れています。JIPMの調査で保全費を性格別に分類すると、予防保全費用が28.6%で最も高い一方、故障後の緊急対応である事後保全費用も22.5%を占めています。計画的に行う予防保全に、いまだ事後対応が相当の比重で並んでいるのが実態です。

図:保全費の性格別分類の比率。事後保全費用が25.8%を占め、予知保全費用は6.8%にとどまる(日本プラントメンテナンス協会の調査結果をもとに編集部作成)。

図:計画的な保全費用(予防・計画修理・予知)は全体の57.8%(日本プラントメンテナンス協会の調査結果をもとに編集部作成)。
とくに目を向けたいのは、予知保全費用がわずか6.8%にとどまる点です。あるべき姿の最終形としてよく挙げられる予知保全に、費用の面ではほとんどの現場がまだ到達していないことがわかります。実際、2024年度調査では、IoTやAIの活用で増えると見込まれた予知保全費用が2.1ポイント減少する一方、予防保全費用は2.4ポイント増加すると推計されており、多くの現場が予防保全の手前で足踏みしている実態がうかがえます。
参考:
JIPM『2023年度メンテナンス実態調査』(保全費の性格別分類の比率)
JIPM『2024年度メンテナンス実態調査報告書 概要』
あるべき姿の前提となるデータ活用が進まない根本の原因は、そもそも記録が残っていない、または残っていても分散していることにあります。データがなければ、予防保全の計画もAIの活用も成り立ちません。
記録が活用できない状態には、3つの段階があります。まず、点検や故障の記録がそもそも取られていない。次に、記録があっても書き方がばらばらで、そろっていない。そして、記録どうしが関連づけられておらず、設備ごとの履歴として追えない。こうした状態が生まれる背景には、紙やエクセルが現場作業に向かないという事情があります。立ち仕事が中心の現場では入力しづらく、写真も残しにくく、過去の履歴を探すのにも手間がかかります。その結果、記録は定着しないまま散らばっていきます。
設備の状況も、記録の重要性を高めています。JIPMの2024年度調査では、前年より増加した課題として『高経年設備対応』を挙げた事業者が62.0%にのぼり、『人材育成・確保の方法』(70.5%)に次ぐ高さでした。古い設備への対応に追われる現場が増えているのに、その判断のもとになる過去の記録が手元にない。ここに、理想と現実の大きなギャップがあります。ところが、その判断のもとになる過去の記録が手元にない。ここに、理想と現実の大きなギャップがあります。

図:設備起因の損失に比べ、高経年設備は「増加している」との回答が63.0%と突出している(日本プラントメンテナンス協会の調査結果をもとに編集部作成)。
参考:JIPM『2024年度メンテナンス実態調査報告書 概要編』

設備保全のあるべき姿は、一度に到達する完成形ではなく、現場が段階的に進めていくものと考えると現実的です。JIPMの調査結果が示すとおり、多くの現場は記録とデータの土台が整っていません。だからこそ、土台づくりから始めて予防保全、予知保全へと順に近づいていく手順が有効です。M2Xが導入支援で一貫して提案しているのも、AIがないとはじまらないのではなく、データがないとはじまらないという順序の考え方です。まず全体像を確認します。
段階 | その段階で目指す状態 | まず取り組むこと |
|---|---|---|
第1段階 | 記録が蓄積され、抜け漏れや表記のばらつきがない | 紙や口頭の記録をデジタルに置き換える |
第2段階 | 蓄積した記録をもとに予防保全が回りはじめる | 故障履歴から点検・交換の計画を組む |
第3段階 | データを生かして予知保全や高度化に近づく | 蓄積データで状態を予測し先手を打つ |
あるべき姿への第一段階は、判断に使える記録をためて土台を整えることです。ここを飛ばすと、その上のどの段階も成り立ちません。
予防保全は過去の故障傾向がわからなければ計画できず、予知保全やAIの活用も、分析するデータがなければ機能しません。地面を整えないまま建物を建てられないのと同じで、記録という土台がなければ、その上のどの取り組みも積み上がっていきません。まずは日々の点検や故障、その対応の内容を、確実に残せる状態をつくること。ここから、あるべき姿への取り組みが始まります。
記録が一定量たまると、故障の傾向が見えるようになり、計画的な点検や部品交換に踏み出せます。この段階で、予防保全が現実のものになります。
記録が増えることの効果は、単にデータがたまることだけではありません。これまで担当者の記憶に埋もれ、記録されずに見過ごされてきたトラブル、いわば埋没トラブルが目に見えるようになります。M2Xが伴走してきた現場では、入力が容易になって記録上のトラブル件数が増えた一方で、先手の対応が利くようになり出来高はむしろ増えた、という例も見られます。たとえば、特定の設備で似た不具合が季節ごとに起きているといった傾向がつかめれば、事前に部品を手配し、計画的に交換するといった先回りの対応ができます。記録は、後から振り返って判断するための材料であり、予防保全はその材料の上に成り立ちます。
十分な量と質のデータがそろって初めて、設備の状態を予測する予知保全やAIの活用に手が届きます。あるべき姿の最終形は、土台の延長線上にあります。
ここで大切なのは、AIは万能ではないという点です。どれほど腕のいい料理人でも、食材がなければ一皿も作れません。AIにとってのデータは、その食材にあたります。AIを生かした設備保全は、量と質のそろったデータと、それを使いこなす人がそろって初めて成り立つのです。JIPMの2024年度調査(概要編)、予知保全にかける費用は保全費全体の6.8%にとどまっており、多くの現場は予知保全の手前にいます。だからこそ、一足飛びに最終形を目指すのではなく、記録から予防保全、予防保全から予知保全へと順を追って進めることが現実的です。一見遠回りに思えても、これが結果的に最も着実な進め方になります。
参考:JIPM『2024年度メンテナンス実態調査報告書 概要編』
あるべき姿への第一歩は、記録の残し方を見直すことです。土台づくりにあたるこの段階を、具体的にどう進めるかを3つの観点から見ていきます。単に記録をデジタルにするだけでなく、後から使える形で残すことが要点です。
記録は、後から誰が読んでも同じ状況を再現できる形で残すことが重要です。書き手によって内容がぶれると、いくら蓄積しても活用できません。
たとえば「異音がした」という記録だけでは、後から読んだ人に状況が伝わりません。どの設備の、どのあたりから、どのような音がしたのか。可能であれば数値を添え、写真や動画をその場で残すと、記録は後から状況を再現できる情報になります。百聞は一見に如かずというとおり、文章だけでは抜け落ちてしまう情報があるからです。そのためには、用語や記録のテンプレートを現場であらかじめそろえておくことが有効です。書き方を統一するだけで、記録は個人のメモにとどまらず、チーム全体で使える情報になります。
記録は、探せて共有できて初めて価値を持ちます。紙やばらばらのファイルで管理していると、必要なときに過去の対応にたどり着けません。
「あのトラブル、前にも起きた気がする」。そう思ってベテランに聞いて回り、古いファイルを開いては閉じ、結局わからずじまいだった。そんな経験のある現場は少なくないはずです。設備保全では、過去に同じ設備で起きたトラブルの対応履歴が、いま目の前の判断を大きく助けます。しかし紙の記録は事務所に戻らないと見られず、探すのにも手間がかかります。自由記述のエクセルは、表記のばらつきで集計もしづらい。記録を検索でき、現場のその場で共有できる状態にしておくことが、対応のスピードと質を左右します。
後の予防保全で使う情報は、いまの段階から意識してためておくことをおすすめします。設備ごとの故障・修理の履歴、停止時間、部品の使用実績といった情報は、後からさかのぼって集め直すことができないからです。
予防保全の計画は、過去データの蓄積があって初めて成り立ちます。いざ取り組もうと決めてから記録を集め始めると、判断材料がたまるまでの期間が、そのまま待ち時間になってしまいます。たとえば部品の使用実績を日々の修理記録とあわせて残しておけば、交換周期の見直しや在庫の適正化にそのまま生かせます。いま使わない情報でも、先を見越して残しておくことが、次の段階へスムーズに進む助けになります。
ここまで述べてきた順序を、実際に踏んで成果を上げた企業の事例を紹介します。業種も、つまずいていた段階もさまざまです。自社がいまどの段階にいるかを重ねながら読んでみてください。まず5社の概要を一覧で示します。
企業 | 業種 | つまずいていた段階 | 変化 |
|---|---|---|---|
テイケイ気化器 | 自動車部品 | 記録・部品管理の土台 | 部品欠品による停止をほぼゼロに |
京都プラテック | プラスチック成形 | 電子化の次の運用段階 | 休日出勤ゼロ・突発停止1日以下 |
シマダヤ東北 | 食品 | 土台を順に構築 | 帳票を段階的に電子化し保全力が向上 |
Nビバレッジ | 飲料 | 記録から予防保全へ | トラブル履歴で定期点検を見直し |
ライフドリンク カンパニー | 飲料 | 記録の徹底 | 半年で工場稼働率が10%アップ |
自動車部品を手がけるテイケイ気化器では、部品の在庫状況が担当者の頭の中にしかなく、欠品による設備停止が毎月のように発生していました。現場には「設備が止まるのはしょうがない」という諦めが根づいていたといいます。
同社は保全システムに部品データを登録し、入出庫をリアルタイムに共有できる状態を整えました。その結果、部品欠品による設備停止はほぼゼロになり、毎朝1〜1.5時間かかっていた在庫確認や記録の作業もなくなりました。これは、記録と部品管理という土台をまず固めた段階の実例です。あるべき姿を論じる前に、日々の記録を整えることの効果がよく表れています。
プラスチック成形の京都プラテックは、帳票の電子化そのものは別のツールで済ませていました。しかし、報告がタスクとして回らず、修理の対応が滞留。休日出勤が常態化していました。電子化という一段は踏んでいたのに、その次の運用の段階でつまずいていたのです。
同社は、報告を確実にタスクとして回す運用へ切り替えました。結果として、月2回あった休日出勤はゼロになり、突発停止からの復旧は2〜3日から1日以下に短縮、承認にかかる時間も約75%削減されました。この事例は、段階を飛ばさず一段ずつ進めることの大切さを示しています。電子化はゴールではなく、その先の運用まで整えて初めて成果につながります。
食品メーカーのシマダヤ東北では、ベテランの知見の継承が難しく、紙やエクセルの記録では関係者間の共有に時間がかかっていました。
同社は、日報からトラブル記録、点検、保全計画、部品管理へと、業務を段階的に電子化していきました。一度にすべてを変えるのではなく、優先度の高いところから順に置き換えたのです。その結果、保全活動のやり漏れリスクが減少しました。まさに、段階を順に踏んで進めた実例であり、この記事の考え方をそのまま形にしたものだといえます。
飲料メーカーのNビバレッジでは、紙の帳票で記録の書きぶりがばらつき、蓄積しても活用できる状態になっていませんでした。定期点検も熟練者の判断に頼っていました。
同社は記録のフォーマットを統一し、蓄積したトラブル履歴を材料に、定期点検の項目を見直しました。過去に不具合が起きやすい箇所を点検に反映することで、予防保全の質を高めていったのです。記録という第1段階から、予防保全という第2段階へと進んだ実例だといえます。
飲料メーカーのライフドリンク カンパニーでは、現場の記録がすべて紙で、記載漏れやミスが頻発していました。トラブル記録の即時共有も難しい状態でした。
同社は設備停止、部品管理、定期点検の記録をデジタル化しました。その結果、事務作業を1日あたり2〜3時間削減し、導入から半年で工場の稼働率が10%向上しました。効果は事務作業の削減にとどまりません。設備トラブルが起きたときの対応スピードと、誰がどう手を打つかという判断の質が上がったことが、稼働率10%向上の背景にあります。記録の徹底という土台が、経営に直結する成果に結実した好例です。

最後に、あるべき姿を目指す過程でつまずきやすい点を3つ挙げます。いずれも、順序を誤ることから生じる失敗です。情報漏洩のような一般的なIT導入の注意点ではなく、設備保全に固有の落とし穴として押さえておいてください。
最も多い失敗は、記録の土台がないまま、AIやIoTセンサーといった先進的な技術から導入してしまうことです。分析する対象となるデータがなければ、高度な技術も力を発揮できず、投資が回収できません。
AIやIoTセンサーは、整理されたデータがあって初めて力を発揮します。まず土台となるデータをそろえ、そのうえで技術を重ねていく。この順番を逆にしないことが、遠回りを避けるための最も大きなポイントです。
現場が入力を続けられない仕組みを導入すると、記録が定着せず、結局は形だけで終わってしまいます。設備保全のデジタル化の成否は、機能の豊富さよりも、現場での入力のしやすさで決まると言っても過言ではありません。
立ち仕事が中心の保全現場では、事務所のパソコンや紙の帳票は記録の手段として向いていません。その場でさっと入力でき、写真も残せる、現場で使える手段を選ぶことが、記録を続けるための前提になります。導入の際は、機能一覧だけでなく、現場の担当者が毎日無理なく使えるかどうかを必ず確認してください。
他社の成功事例や教科書的な理想像を、そのまま自社に持ち込むのも避けたい失敗です。自社の現在地と合っていなければ、取り組みは形だけになり、定着しません。
業種や設備の規模、老朽化の度合いによって、最適な進め方は変わります。予知保全が有効な設備もあれば、まずは記録の徹底から始めるべき現場もあります。大切なのは、他社がどこまで進んでいるかではなく、自社がいまどの段階にいるかを見きわめることです。そのうえで、次の一段を着実に進めていく姿勢が、あるべき姿への確かな道筋になります。
記録の土台づくりから始めるという選択肢

自社だけで、現場が無理なく続けられる記録の仕組みを整えるのは、負担が大きい場面もあります。クラウド型の設備保全システムは、現場の入力負担を抑えながら、あるべき姿への第一歩となるデータ基盤を整える現実的な選択肢のひとつです。設備保全DXの進め方に関心をお持ちの方は、ぜひ資料をダウンロード、またはお気軽にお問い合わせください。
設備保全のあるべき姿は、ただ他社のやり方を真似て手に入れるものではありません。いまの自社の状況を出発点に、一段ずつ進めていく道筋として描くものです。
予防保全や予知保全といった理想像は、確かに目指す価値があります。しかし、多くの現場がその手前で足踏みしているのは、記録という土台を整えないまま、最終形だけを追ってしまうからでした。日本プラントメンテナンス協会の調査でも、予知保全にかける費用はわずか6.8%にとどまり、直近の2024年度調査ではむしろ減少傾向すら示されています。大半の現場は、いまも理想の入口に立っている段階です。
だからこそ、まずは保全記録をためて土台をつくり、たまった記録を予防保全の判断に生かし、十分なデータがそろった段階で予知保全へ近づいていく。この順番で進めることが、一見遠回りに見えても、結果的に最も着実な進め方になります。今回紹介した5社も、それぞれの状況を出発点に一段ずつ前進し、着実に成果を上げてきました。
設備保全のあるべき姿を考えるとき、最初の問いは「理想はどんな姿か」ではなく「自社はいまどの段階にいるか」です。その現在地を見きわめるところから、あるべき姿への歩みは始まります。
執筆者
M2X編集部
M2X編集部です。設備保全や現場のDXに役立つ情報を、わかりやすくお届けします。製造業の"今"に寄り添い、明日から使えるヒントを発信していきます。
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