
点検の項目は年々増えている。チェックリストも整えた。それでも突発的な設備トラブルはなくならない。多くの製造現場で、この状態が続いています。
先に結論を述べると、設備保全の目的は、設備に求められる機能を保つことであって、すべての故障を防ぐことではありません。ですから保全方法も、設備1台につき一つではなく、その設備がどう壊れるかごとに決まります。決め手になるのは、故障が起きたときの影響を受け入れられるか、そして有効な対策があるかの2つです。
本記事では、設備保全の目的から保全方法の決め方までを、JIS(日本産業規格)の定義と公的な統計、製造現場の実例をもとに整理します。
▼この記事の要点
・設備保全とは「設備が使える状態を保つ活動全体」を指す
設備保全には、点検や修理だけでなく、清掃・給油・予備品管理・記録までが含まれます。事後保全・予防保全・予知保全は、そのうち「いつ手を入れるか」で分けた呼び名にすぎません。
・目的は「故障ゼロ」ではなく「影響を受け入れられる範囲に収めること」
設備保全の目的は、故障が起きたときの影響を、安全・品質・生産・コストの面で許容できる範囲に収めることです。切れても生産に影響しない部品を壊れてから交換するのも、あえてそう選んだ一つの保全方法です。
・保全方法は設備ごとではなく「部品の壊れ方」で決まる
たとえば同じモーターでも、軸受が摩耗する場合と絶縁が劣化する場合では、打つべき対策が違います。実際の工場では、1台の設備の中でも複数の保全方法が混ざり合っています。
・保全方法は決まった順番で確かめて決める
保全方法は、「壊れたら何が困るか」「前兆を捉えて対応できるか」「定期的な交換が有効か」「その対策が影響に見合うか」の順に確かめて決めます。どれでも手を打てない故障については、点検を増やすのではなく、部品や運転条件そのものを見直します。
設備保全という言葉が指す範囲は、多くの人が思っているより広いものです。点検や修理はその一部にすぎません。次の表は、設備保全に含まれる主な活動を、何をするか・いつ行うかで整理したものです。
活動 | 何をするか | いつ行うか |
点検・検査 | 設備の状態を目視や測定で確かめる | 日常/定期 |
清掃・給油・調整 | 劣化を進みにくくする | 日常 |
部品交換 | 劣化した部品を新しくする | 計画的/故障時 |
修理・復旧 | 壊れた機能を元に戻す | 故障時 |
改良保全 | 壊れにくい設備に作り替える | 必要と判断したとき |
予備品管理 | 必要な部品をすぐ出せる状態にする | 日常 |
保全計画 | どこに何をいつ行うかを決める | 年度/月次 |
記録 | 起きたことと行ったことを残す | その都度 |
設備保全とは、上の表に並べた活動をすべてまとめた呼び方です。点検だけでも修理だけでもなく、清掃や給油、予備品(部品)の在庫管理、計画づくりまでが含まれます。
これらをひとまとめにすると、劣化を防ぐ、劣化を測る、劣化を元に戻すという3つの働きになります。清掃や給油は劣化を防ぐ働き、点検や検査は劣化を測る働き、部品交換や修理は劣化を元に戻す働きです。設備保全という言葉のJISの定義も、この3つの働きを担う日常的または定期的な活動の総称、というものです。
設備保全システムに、トラブル記録も点検計画も設備台帳も予備品在庫も文書管理も収まっているのは、これらが切り離せない一続きの仕事だからです。
参考資料
設備保全の目的は、設備そのものを守ることではなく、設備に求められる働きを維持することです。製造設備であれば、決められた品質の製品を、必要な量だけ、安全に作れることが求められます。設備が古いか新しいかではなく、この働きを果たせているかどうかが問われます。
設備に求められる働きが失われたときの影響は、大きく4つに整理できます。
影響 | 何が損なわれるか | 具体例 |
安全 | 作業者の安全や周辺環境 | はさまれや巻き込まれ、設備の破損による二次被害 |
品質 | 製品の品質や衛生 | 寸法や温度が規格から外れる、異物混入、ロットの廃棄 |
生産 | 納期や生産量 | ラインの停止、出荷の遅れ、作れなかった分の損失 |
コスト | 修理費・部品費・人件費 | 突発対応の残業、部品の緊急手配、まだ使える部品の廃棄 |
つまり設備保全は、故障させないことそのものを目的にしているわけではありません。設備に必要な働きを維持し、その働きが失われることで生じる安全・品質・生産・コストへの影響を抑えることが目的です。
だから、設備を新品同様に保つ必要も、すべての故障を防ぐ必要もありません。多少古くても必要な働きを果たしているなら、その設備は役目を果たしています。反対に、働きを維持するための修理や保全に費用がかかりすぎるようになれば、使い続けるより更新したほうが合理的な場合もあります。
この考え方に立つと、設備保全で考えるべきことも見えてきます。出発点は「設備をどう守るか」ではありません。「どの働きが失われると困るのか、その働きはどんな故障によって失われるのか」を考えることです。
設備保全で目指すのは、故障をゼロにすることではありません。故障が起きたときの影響を、安全・品質・生産・コストの面で受け入れられる範囲に収めることです。
たとえば、切れても生産にも安全にも影響しない表示ランプがあります。この部品を壊れる前に交換する優先度は、生産を止める部品と比べれば高くありません。壊れてから交換するという判断は、故障を軽く見ているのではなく、起きたときの影響が小さいと見たうえで、あえてそう選んだ保全方法です。
この考え方は業界団体の資料にも示されています。JEITA(電子情報技術産業協会)の調査報告書は「生産活動への影響が少ないものは事後保全、重要なものは定期保全で定期的に検査・調整・交換し故障を未然防止する」と記しています。影響の小さいものは壊れてから直す、という選び方が前提に置かれているということです。
M2Xが伴走してきた製造現場では「色々やっているのに、いつまで経ってもトラブルが止まらない」という声が繰り返し聞かれます。すべての故障を等しく防ごうとすると、限られた人数と時間が薄く広がり、本当に止めたい故障に手が回らなくなります。防ぐべき故障を選ぶことは、手を抜くことではありません。
ここまで、影響が小さい故障であれば、壊れてから直すのも一つの選択肢だと書きました。ただし、この考え方を当てはめてはいけないものが2つあります。人の安全に関わる故障と、法令で検査が義務づけられている設備です。
人の安全に関わる故障を費用と効果で判断しないのは、起きたときの影響が受け入れられないからです。厚生労働省の統計によれば、製造業では休業4日以上のけがにつながった労働事故が、令和7年の1年間で26,371件起きています。事故の型別に見ると、はさまれ・巻き込まれが5,992件で製造業内の最多です。設備に関わる事故は、いまも件数の多い型として起き続けています。
法令で検査が義務づけられている設備が判断の対象にならないのは、そもそも自社で決める話ではないからです。労働安全衛生法は、政令で定める機械等について定期に自主検査を行い、その結果を記録しておくことを事業者に義務づけています。
押さえておきたいのは、法律を読んだだけでは自社の設備が対象かどうか分からない、という点です。法律は「定期に自主検査を行うこと」を定めているだけです。どの設備を、どの内容で、どのくらいの頻度で検査するかは、法律とは別に定められた細かい規則の側で、設備の種類ごとに決まっています。たとえば動力プレスは一年以内ごとに一回、記録は3年間の保存が必要です。自社の設備がどれに当たるかは、設備ごとに確認していくことになります。
参考資料
・電子情報技術産業協会『予知保全技術に関する調査報告書 第3版』2025年7月

設備保全の現場では、誰が何をしているのか。設備が止まったときの動き方と、その仕事を誰が担っているかを見ていきます。
設備が止まった瞬間から、保全担当者は次の5つを短い時間でこなしています。
① 状況をつかむ 工場の中を移動して、何がどう止まったのかを即座に把握する
② 原因を推測する 考えられる要因と対応の方針を、その場で組み立てる
③ 予備品(交換部品)と手順書を探す 場内に散らばった部品棚や文書棚から、必要なものを見つけ出す
④ 直す 図面や手順書が頭に入った状態で、的確に修理する
⑤ 記録する 記憶が薄れる前に、何が起きて何をしたのかを残す
この5つは、ラインが止まっている間に並行して進みます。どれか1つの工程が滞れば、そのぶん設備の停止時間が延びます。たとえば部品を探すのに時間がかかれば、修理そのものの腕がどれだけあっても、生産の再開は遅れます。
注目したいのは、記録が最後に置かれていることです。設備が直った時点で生産は再開し、次の対応が始まります。記録だけが後回しになりやすいのは、この順番のためです。
設備保全は保全部門だけの仕事ではありません。多くの工場で見られるのは、日常の点検や清掃や給油を、設備を動かしている作業者自身が担い、計画的な検査や修理を保全部門が担うという分担です。設備を毎日動かしている人がいちばん先に異常に気づける、という理由からこの分担が広く採られています。
とはいえ、この分担がすべての工場に当てはまるわけではありません。保全の専任部署を置かず製造部門が修理まで担う会社もあれば、日常点検まで保全部門が担っている工場もあります。分担のしかたは会社の規模や設備の性格によって変わります。
設備が止まったときの5つの仕事のうち、2番目の「原因を推測する」は、ベテランの頭の中にある過去の経験に強く頼ります。同じ異音でも、その設備がこれまでどう使われてきたか、いま何を作っているかによって、疑うべき原因が変わるからです。ベテランは過去に見た似た症状を思い出しながら、その場で見当をつけています。
問題は、この見当のつけ方が記録に残らないことです。記録に残るのは、どの部品を交換したかといった作業の内容だけになりがちです。担当者がなぜその原因だと考えたのか、ほかの可能性をどう捨てたのかは残りません。
作業の内容は残るのに、判断の理由は残らない。この状態が問題になるのが世代交代の場面です。経済産業省の2026年版ものづくり白書によれば、技術・技能の継承にあたっての課題として「ベテラン等の知識や経験等の形式知化が難しい」を挙げた事業者は68.6%にのぼります。作業の手順は引き継げても、判断のしかたは引き継ぎにくいのです。
では、判断の過程まで記録に残すと何が変わるのか。高機能樹脂原料などを製造する本州化学工業も、世代交代が進むなかで、ベテランのトラブル対応や判断基準をどう若手に残すかに悩んでいました。
保全管理システムM2Xで対応の履歴を残すようにしたところ、「過去に誰がどのような事象にどう対応していたかを簡単に確認できるようになりました」「自分で過去履歴をたどって学べる環境が整いつつあります」という状態になっています。若手が先輩をつかまえて聞かなくても、自分で過去をたどって学べるようになったということです。
何をしたかに加えて、なぜそうしたかを残せるかどうかが、引き継ぎの成否を分けます。
参考資料
設備保全に含まれる活動のうち、判断が分かれるのは点検と部品交換のタイミングです。ここを決めるやり方は、事後保全・予防保全・予知保全の3つに分けられます。
保全方法 | 手を入れるきっかけ | どんな壊れ方に合うか | 費用の発生のしかた |
事後保全 | 壊れたこと | 止まっても影響が小さく、直すのが早くて安い | 故障したときにまとめて出る |
予防保全 | あらかじめ決めた期間や運転時間に達したこと(時間計画保全)、または測った数値が決めた線を越えたこと(状態基準保全) | 使い続けるほど壊れやすくなる。または劣化が数値に現れる | 計画的に平準化して出る。測定と分析には継続的に出る |
予知保全 | 数値の変わり方から先を読んだ判断 | 劣化の進み方に傾向がある | センサーや分析の仕組みを整える初期費用が大きい |
事後保全・予防保全・予知保全の違いは、進んでいるか遅れているかではありません。何をきっかけに手を入れるかです。
壊れたことをきっかけにするのが事後保全。あらかじめ決めた期間や運転時間に達したことをきっかけにするのが、予防保全のうちの時間計画保全。測った数値が決めた線を越えたことをきっかけにするのが状態基準保全。そして数値の変わり方から先を読んで動くのが予知保全です。実務ではTBM(Time Based Maintenance/時間基準保全)、CBM(Condition Based Maintenance/状態基準保全)という略称も使われます。
このうち予知保全は、劣化の傾向を管理して、故障に至る前の最適なタイミングで手を入れる方法です。
工場は事後保全・予防保全・予知保全のどれか一つを選んでいるわけではなく、3つとも並行して実行しています。
保全費の内訳を見るとそれがわかります。日本プラントメンテナンス協会の調査によれば、製造業全体の保全費の構成比は、予防保全31.0%、予知保全23.7%、事後保全22.3%、計画修理11.3%(2024年度の予測値、回答169社)。どれか一つに偏っているのではありません。
保全方法は、どれか一つで十分というものではありません。組み合わせることで設備の性能を保つ、というのが前提です。事後保全に2割を超える費用が出ていることは、取り組みが遅れている証拠ではありません。壊れてから直したほうが合理的な設備が、どの工場にも一定数あるということです。
事後保全・予防保全・予知保全という分け方は整理のための呼び名であって、現場では複数の保全方法が混ざっています。
状態を見ながら管理している設備でも、異常に気づいた時点ですぐ止めるとは限りません。生産の状況を見て、次の定期停止まで待ってから手を入れることがあります。逆に、決めた間隔で点検している設備でも、点検中に異常が見つかればその場で直します。一つの設備に、複数の保全方法が並行して当たっているのが実際の姿です。
大切なのは、自社をどの型に当てはめるかではありません。どの設備にどの保全方法を当てるかを、根拠をもって説明できることです。
参考資料
・日本プラントメンテナンス協会『2024年度メンテナンス実態調査報告書 概要編』
・電子情報技術産業協会『予知保全技術に関する調査報告書 第3版』2025年7月
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一つの設備の中には性質の違う壊れ方がいくつも同居しているため、設備を一つの単位として保全方法を決めると行き詰まります。
モーターを例にとります。「モーターが壊れる」という捉え方では、何をすればよいかが決まりません。実際には、軸受が摩耗する、絶縁が劣化する、軸がずれる、潤滑が切れる、過熱する、といった壊れ方があります。軸受の摩耗は振動に現れますが、絶縁の劣化は振動には現れません。潤滑切れは日常の給油で防げますが、軸のずれは据付や運転条件の問題です。同じモーターでも、前兆が出るかどうかも、打つべき対策も違います。こうした壊れ方を、保全の世界では故障モードと呼びます。
保全方法を部品や壊れ方の単位で決めるという考え方は、規格の上でも整理されています。設備の壊れ方を洗い出し、影響の大きい部位や部品を選び出したうえで、そこに合う予防保全のやり方を決める。設備まるごとではなく、部位や部品を選ぶところから始めるという順序です。

一台の設備を丸ごと、同じタイミングで点検・交換すると決めた場合、そのタイミングは、いちばん早く傷む部品に合わせざるを得なくなります。
すると2つのことが同時に起きます。まだ十分に使える部品まで一緒に交換することになり、部品費と作業時間が余分にかかります。それでいて、時間の経過とは関係なく起きる壊れ方は防げないまま残ります。点検の項目は増えているのにトラブルは減らない、という感覚はここから生まれます。
もちろん、一台を丸ごと同じタイミングで見ても、うまく回っている設備はあります。構造が単純で、主要な部品の傷み方がそろっていれば、それで足ります。問題は、傷み方の違う部品が混ざっている設備にまで、同じタイミングを当ててしまうことです。
参考資料

設備のどこがどう壊れるのか、その壊れ方の一つひとつに対して、どの保全方法を当てるかをどう決めればよいのか。次の順番で確かめていきます。
この順番は、JISで定義されている信頼性重視保全(RCM)の考え方を参考に、現場で保全方法を選びやすい形に整理したものです。RCMでは、故障の起こりやすさと故障したときの影響を踏まえ、必要な保全活動やその頻度を決めていきます。
順番 | 確かめること | 当てはまるときの保全方法 |
前提 | 法令で検査・点検が求められているか | 法令に従って実施する |
1 | 壊れたことが通常運転中に分かるか | 分からない安全装置や待機設備などは、定期的に作動させて確かめる |
2 | 壊れたときの影響を受け入れられるか | 受け入れられ、予防する合理性もなければ、壊れてから直す |
3 | 前兆を捉えて、故障する前に対応できるか | 状態を見て保全する |
4 | 使用時間や回数とともに故障しやすくなり、定期的な交換や整備が有効か | 定期的に交換・整備する |
5 | 選んだ対策は、故障の影響に対して合理的か | 安全や環境への影響ならリスクを許容できる水準まで下げられるか、生産やコストへの影響なら費用が防げる損失に見合うかで判断する |
6 | 有効な保全方法がなく、影響も受け入れられない | 部品、運転条件、作業方法、設備の構造を見直す |
表のいちばん上に置いた法令の確認は、判断の対象ではありません。法令が検査を求めているものは、費用と効果を比べる前に実施します。1から6は、それを済ませたうえで自社が決められる部分です。
最初に確かめるのは、その部品が壊れたときに、それが通常の運転中に分かるかどうかです。多くの部品は、壊れれば設備が止まったり異音が出たりするので気づけます。
一方で、壊れていても気づけない部品があります。安全装置や非常停止、警報装置、待機している予備機のように、普段は動いていないものです。生産中は何も起きず、いざというときに初めて機能していなかったことがわかります。
こうした部品には、故障を防ぐという考え方が当てはまりません。定期的にその部品を動かしてみて、決められた働きをするかどうかを確かめる、という別の方法を当てます。すでに壊れていないかを見つけにいく確認です。この確認は、法令が義務づけている定期自主検査の項目と一部重なります。
壊れたことに気づける部品については、その部品が壊れたときに何が困るかを確かめます。生産が長時間止まるのか、不良品が出るのか、けがにつながるのか、それともほとんど何も起きないのか。
どれも大きな問題にならず、あらかじめ手を入れておく合理性もないなら、あえて壊れてから直すという方法を選ぶこともあります。逆に、影響が小さくても交換が安く簡単に済むなら、壊れる前に替えておくほうが合理的な場合もあります。
故障が起きたときの影響の大きさは、人によって判断が変わらないよう、評価する項目と段階をあらかじめ決めておくとぶれません。生産性、労働衛生、事故、公害、保全性、信頼性、保全費といった項目ごとに3段階で分ける、という評価のしかたが業界団体の資料でも示されています。これらの項目は、本記事の前半で挙げた、設備の働きが失われたときの影響である安全・品質・生産・コストの4つと重なります。
前兆が出る壊れ方であっても、その前兆に気づいてから手を打つまでが間に合わなければ、状態を見て判断するという方法は成立しません。
振動で軸受の異常に気づけるとします。しかし、気づいてから実際に壊れるまでが2時間で、交換部品の調達に3日かかるなら、その監視は保全として機能しません。異常に気づいた状態で、なす術なく停止を待つことになります。逆に1か月前に気づけるなら十分に使えます。次の定期停止に合わせて予備品を手配し、計画的に交換できるからです。
つまり確かめるのは、前兆に気づけるかどうかだけではありません。気づいてから機能が失われるまでの時間と、部品の調達や停止の調整にかかる時間を並べて、後者が前者に収まるかどうかです。
M2Xが伴走してきた現場では「必要な予備品を探すのに3時間かかった」という状況が珍しくありません。監視の仕組みを検討する前に、部品の調達と復旧にどれだけかかっているかを把握しておくと、判断がぶれずに済みます。
定期的に交換するという方法が効くのは、使用時間や回数とともに故障しやすくなり、交換や整備によって故障が減る部品に限られます。使った時間と関係なくランダムに壊れる部品を定期交換しても、故障は減りません。「重要な部品だから半年ごとに交換する」では成立しません。「半年使ったものを新品に替えることで、本当に故障が減るのか」が問われます。
この点については古典的な調査があります。1978年に航空機部品を対象に行われた大規模な調査では、部品の壊れ方は6つの型に分けられました。このうち「使い始めてから一定の期間を過ぎると急に壊れやすくなる」型、つまり交換の目安になる寿命がある型は、全体の6%だけでした。同じ調査は、全体の89%について、使う時間に上限を決めて交換しても故障は減らせないと報告しています。
つまり、多くの部品は、使った時間の長さとは関係なく壊れるということです。定期的に交換すれば防げる故障は、思っているより限られます。
なお、これは航空機部品を対象にした古い調査であり、工場設備にそのまま当てはめられるものではありません。ただし、示唆そのものは現在の現場にも通じます。
自社の部品が使い続けるほど壊れやすくなるタイプかどうかは、交換の記録を残していけば分かります。
飲料を製造するホーマーコーポレーションは、保全管理システムM2Xで交換の記録を残せるようになったことで、「メーカー推奨の交換頻度ではなく、実際にどうだったかを振り返ることができるようになり、自社に合った保全活動ができるようになった」と語っています。決めていた交換の間隔が自社の設備に合っていたかは、記録がそろって初めて検証できるということです。
メーカーの推奨値が不要になるわけではありません。実績のない設備では、推奨値や設計情報が出発点になります。ただ、推奨値どおりに交換してもトラブルが減らない場合は、その壊れ方が本当に使用時間と関係しているのかを疑ってみる価値があります。
対策が打てるとわかっても、それが故障の影響に見合っているかは別の話です。ここで基準が2つに分かれます。
生産やコストへの影響であれば、対策にかかる費用と手間が、防げる損失に見合うかで判断します。一方、人の安全や環境に重大な影響がある故障は、費用対効果では判断しません。リスクを許容できる水準まで下げられるかどうかが基準になります。
ここで見るのは修理費だけではありません。あわせて考えたいのが機会損失費です。設備が劣化したり故障したりしなければ得られたはずの利益のことを指します。修理費が数万円でも、ラインが半日止まれば損失はその何倍にもなります。止まったことで作れなかった分まで含めて比べると、判断が変わることがあります。
予知保全が広がりきらない理由の一つに、投資対効果の不透明さがあります。効果が見えないまま設備投資の判断を求められると、話が前に進みません。防げる損失の側を先に見積もっておくことが、対策の是非を判断する材料になります。
状態を見て判断する方法も、定期的な交換も有効でない一方で、壊れてから直すには影響が大きすぎる故障があります。前兆に気づく有効な方法がなく、使用時間とも関係しない壊れ方です。たとえば、いつ起きるかは読めないのに、起きればラインが長時間止まるような故障です。
こうした故障では、点検の間隔を狭めたり、定期的な交換を設定したりするだけでは、有効な対策にならないことがあります。その場合、手を打つ先は設備そのものに移ります。
まず検討できるのは、部品や使用条件の見直しです。同じ機能を持つ耐久性の高い部品に替える、材質や仕様を変更するといった改善によって、故障の発生頻度や劣化の進み方を変えられることがあります。次に、負荷を下げる、起動と停止の回数を減らす、周囲の温度や粉じんを抑えるなど、運転条件や使用環境を見直す方法があります。それでも故障の影響を十分に抑えられない場合には、設備の構造変更や更新も選択肢になります。
JISは改良保全を「故障が起こりにくい設備への改善,又は性能向上を目的とした保全活動」と定義しています。部品や材質、構造などを見直し、設備そのものを故障しにくくすることも、設備保全の一つの選択肢だということです。
点検や定期的な交換では十分に抑えられない重大な故障が残っているなら、点検の間隔を狭めるだけでなく、故障の原因となっている部品や運転条件、作業方法、設備の構造そのものを見直す必要があります。
ここまで、壊れたことに気づけるか、壊れたら何が困るか、前兆を捉えて対応できるか、定期的な交換が有効か、その対策が影響に見合うか、そのどれも成り立たないときにどうするか、という6つを見てきました。ただし、これを工場のすべての設備、すべての壊れ方に対して一度に当てはめていくのは現実的ではありません。
JEITAの『予知保全技術に関する調査報告書 第3版』も、すべての設備を常時監視することはコスト面で現実的ではないとして、診断対象の重要度評価基準を定め、対象を選定していくことが望ましいとしています。
そこでまず、安全、品質、生産への影響が大きい設備や壊れ方を絞り、そこから順にこの6つを確かめていきます。対象を限定して実際に運用できる形をつくり、その結果を見ながら対象を広げていく方法が現実的です。
参考資料
・F. S. Nowlan and H. F. Heap, Reliability-Centered Maintenance, 1978
・電子情報技術産業協会『予知保全技術に関する調査報告書 第3版』2025年7月
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保全方法を決めたあと、その判断が合っていたかはどう確かめるのか。代表的な指標を整理します。
指標 | 何を測るか | どの見直しに効くか |
MTBF(平均故障間隔) | 故障から次の故障までの平均時間 | 壊れ方そのものを減らせたか |
MTTR(平均修復時間) | 止まってから直るまでの平均時間 | 部品と手順書にすぐ辿り着けるか |
設備稼働率 | 使える状態だった時間の割合 | 上の2つの結果が出る総合的な指標 |
計画保全率 | 計画して行った保全が全体に占める割合 | 突発対応に追われる状態から抜け出せているか |

MTBF(Mean Time Between Failures/平均故障間隔)とMTTR(Mean Time To Repair/平均修復時間)は、別のことを教えてくれます。MTBFは壊れにくさ、MTTRは直りやすさを見る指標です。
この2つを分けて見ると、打つべき対策が変わります。MTBFが短くなっているときは、故障の原因や部品、運転条件など、壊れ方そのものへの対策を見直す必要があります。一方、MTTRが長い場合は、修理の腕だけを見ていても原因はつかめません。部品の手配、手順書や図面の確認、関係者への連絡など、実際に修復する作業以外の部分に時間がかかっていることもあるため、どこで時間を使っているかを分けて見る必要があります。
設備稼働率だけを見ていると、この区別はつきません。同じ稼働率でも、故障の回数が多い設備と、一度の故障からの復旧に時間がかかる設備では、必要な対策が違うためです。停止による損失を金額で把握するだけでなく、どこに対策を打てばその損失を減らせるのかを説明するには、MTBFとMTTRに分けて見ることが役立ちます。
指標を並べて良し悪しを言うだけでは、次に何をするかが決まりません。壊れたことに気づけるか、壊れたら何が困るか、前兆を捉えて対応できるか、定期的な交換が有効か、その対策が影響に見合うか。保全方法を決めるときに確かめたこれらに立ち返り、選んだ保全方法が合っていたかを確かめる材料として使います。
たとえば、ある設備の交換の間隔を短くしたのにMTBFが改善しないとします。この場合、その壊れ方が使用時間と関係していない可能性があります。さらに間隔を短くしても効かないなら、状態を見る方法に切り替えるか、部品や運転条件を見直す番かもしれません。
増えている課題として保全データの活用・分析を挙げた企業は、4割を超えています。記録は取れていても、判断に使えていない現場が多いということです。
参考資料
・日本プラントメンテナンス協会『2024年度メンテナンス実態調査報告書 概要編』
保全方法の決め方が分かっても、それを続けられるかは別の問題です。つまずく場面を整理します。
つまずき | 現場で起きていること | どう手を打つか |
記録する余裕がない | その場の対応に追われ、記録が後回しになる | 記録の負担を下げる。その場で残せる形にする |
記録があっても読み返せない | 書き方が人によって違い、複数の帳票に散らばる | 入力フォーマットを決める |
保全方法が最初のまま残る | いつ決めたか分からない間隔で点検が続く | 実績で見直す機会を業務に組み込む |
記録が残らないのは担当者の意識の問題ではなく、忙しさと難しさと人手不足が同時に重なっているためです。
設備が止まったときの5つの仕事のうち、最後に置かれているのが記録でした。直った時点でラインは動き出し、次の対応が待っています。記憶が鮮明なうちに書けばよいと分かっていても、その時間が取れません。
M2Xが伴走してきた現場では、次の3つが同時に起きています。
① 日々の対応に振り回され、記録する時間が取れない
② 知見や経験が求められるのに、熟練の技術者が引退していく
③ 人手不足が深刻化し、新しい仕組みを試す余力もない
記録を残そうという呼びかけだけで状況が変わらないのは、この3つが重なっているためです。記録の負担そのものを下げないかぎり、優先順位は上がりません。
記録が残っていても、次の判断の材料にならないことがあります。書き方が人によって違い、複数の帳票に情報が散らばっているためです。
ホーマーコーポレーションは、保全管理システムM2Xの導入前、トラブル報告書と引き継ぎ日報に情報が分かれ、一箇所を見れば全体が分かる状態になっていなかったと振り返っています。同じ設備が2ラインあって構造も同じなのに、略称の書き間違いで後から探しにくいという状態も生まれていました。
紙とエクセルは事務所で使う道具です。立ち仕事が中心の現場では入力しづらく、写真も残しづらく、過去の履歴も探しづらく、自由記述であるため集計もしづらい。記録が読み返せない原因は、書く人の意識だけではありません。道具と場所が合っていないことも大きく影響しています。
保全方法を決めるときの確認を一度通しても、その後に見直す機会が業務に入っていなければ、点検や交換のタイミングも点検項目も最初に決めたまま残ります。
設備の使い方が変わっても、生産量が増えても、点検や交換の間隔だけがそのままになっているケースがあります。いつ、どんな根拠で決まったのかを辿れないと、変えてよいのかの判断がつきません。結果として、点検や交換の間隔は触らないでおこうという結論に落ち着きます。
見直しを個人の心がけに任せると続きません。見直す場を業務の中に組み込んでいる例もあります。包装資材を製造するAPPLE FILM Da Nangでは、毎朝の振り返りに加えて、月次会議でラインごとにデータを振り返り、傾向の分析と点検活動の計画立てを行っています。どこに組み込むかは会社によって違いますが、決まった場を持っておくことが、見直しを続ける条件になります。

どの壊れ方にどの保全方法を当てるかを決めたあと、その判断が正しかったかを確かめるには、どこがいつどう壊れたかを後から取り出せることが前提になります。紙とエクセルのままでその状態をつくるのは、負担が大きい局面もあります。クラウド型の設備保全アプリは、現場の入力負担を抑えながら故障履歴を蓄積する現実的な一手です。
▶ 設備保全DXの詳細はこちら(M2X Software)
参考資料
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設備保全とは、点検や修理などによって設備の機能を維持する諸活動の総称です。その目的は、すべての故障を防ぐことではなく、故障が起きたときの影響を安全・品質・生産・コストの面で受け入れられる範囲に収めることにあります。
そして保全方法は、設備ごとに一つ決まるものではありません。壊れ方の一つひとつについて、その影響を受け入れられるか、そして有効な対策があるかで決まります。壊れてから直すという判断も、影響が小さいと見たうえで、あえてそう選んだ一つの保全方法です。
この先、判断のための人手はさらに限られていきます。2040年には1,100万人余の労働供給が不足するという推計もあります。すべての設備に等しく手を当てる余力は、今より小さくなっていきます。
だからこそ、どこに手を当てるかを決める材料を、今から残しておく意味があります。設備保全の第一歩を踏み出す際は、ぜひM2Xがお手伝いできれば幸いです。
参考資料
・リクルートワークス研究所『未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる』2023年3月(https://www.works-i.com/research/report/forecast2040.html)
執筆者
M2X編集部
M2X編集部です。設備保全や現場のDXに役立つ情報を、わかりやすくお届けします。製造業の"今"に寄り添い、明日から使えるヒントを発信していきます。
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